1911年10月2日(火)
     再び秘書に連絡を取らせるも、間髪をいれずに返答が返ってきた。

     簡単に記せば、もしも私がこれ以上奨学金のことについてガタガタ言うようであれば、小遣いすらもいらないと、

    こういうことだ。

     以前書いたように個人教授をして自力で稼ぐつもりのようである。

     手紙からは怒りのオーラが漂っているような気さえして、彼女が決して折れる気はないということだけは充分に

    わかった。

     まったく、これを読んで私が怒りださなかったのが不思議なほどだ。

     のっけから暴言の嵐。

     私のことを頑固で強情でわからずやでしつこくて、ブルドックみたいに鼻っぱしらが強くて、他人の立場を理解
    できないと言ってきたのだ。

     他にも、奨学金を受けることで誰か他の教育を横取りすることになるといのなら、自分につぎ込む予定だった

    金額をジョン・グリアの別の女の子に使えばよいだろうと返してきている。 

     しかし、ジュディがここまで怒っているのは、スミス氏が頑固で強情でわからずやで…二度も書くか、こんなこと!

    つまりはまあ、奨学金を認めないことにではなく、見知らぬ他人の恩恵を受ける必要などないと言ったことに対

    して激怒しているようなのだ。他の誰よりもジョン・スミス氏のほうが他人ではないかと。

     往来で出会ってもジュディにはそれがスミス氏だとはわからないではないか、ということだ。

     それで一気に頭が冷えた。

     この件に関してもう思い出したくないのだが、私が始めに決めたルールである。

     自分で自分の首を絞めた格好というわけだ。

     ある種、自業自得であろう。

     だから私も初心に帰ってジョン・スミス氏としてこのことを考えてみよう。

     私は援助をする相手に必要以上を求めてはいない。真面目に学業に取り組み、有用な人間になって世に出て

    行ってくれればそれで満足なのである。ジュディには先に小説家になるという進路を設定したが、それ以外では

    これまで援助を行ってきた子たちとなんら変わることはない。

     となると、私には個人的な感情以外に、ジュディへの援助を打ち切るどのような理由もありはしないということに

    なるのだ。

     遊び呆けて学業不良になったわけでもない。酒でも賭博でも、とにかく何らかの好ましくない事柄に手を出して

    身を持ち崩したわけでもない。

     それどころか事態は完璧に逆である。

     成績が優秀であるがゆえに奨学金を得、小説家になるという目標もクリアしつつある。

     むしろ、私は褒めてやらなければならないはずなのだ。

     それでもどこか納得いかないのは、彼女が私にとって特別になってしまったからだろう。

     もうこのことに関しては沈黙という肯定をもって終わらせようと思う。

     

    

     










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