1912年9月3日(火)
    とんだ番狂わせが起こった!

    パリに来たことをこれほど後悔するはめになるとは…!

    

    旅行中は自分でもどう動くかわからないので、自宅に届いた手紙などは、回送してもらっているのだ。

    行き先が決まったら電信で伝え、新たな目的地の郵便局に局留めしてもらうようにして。

    そのせいで受け取るのが遅くなってしまったが、ジュディからの手紙が来ていたのだ。

    あれほど決意したにも関わらず、私はどうしても彼女のことが忘れられなくて、手紙を書いていたのだ。

    文面が多少ぶっきらぼうになったが仕方があるまい、なにしろ私たちは喧嘩中なのだから。

    しかし、そうしょっちゅう会えるわけでもない私たちが喧嘩など長々と続けていられるはずもない。長引けば長引
   くほど、修復が難しくなる。それに、考えたくはないが、あれで終わりとなり、二度と会わなくなることだってあり得る

   のだ。

    だから私は、休暇が終わる頃合に帰国して、ロック・ウィローで数日間を過ごそうかと考えたのだ。

    その間に、意地を張ったことを互いに水に流せればよいと、そう思ったのだ。ジュディは最初の手紙で、9月に

   なったら農場へ行くと言って来ていたから。

    ところがだ、マクブライド嬢からも誘いが来て、結局アディロンダックに行くことに決めたと言う。

    その理由も並べ立ててきたのだが、徐々に私が腹を立てるであろう順に書いてきているとしか思えないのだ。

    理由その1 アディロンダックを見てみたい。これは許そう。

    その2 マクブライド嬢に会いたい。これもまあいい。

    その3 ジミー・マクブライドにも会いたい。許せん。だが、これも4番目の理由に比べれば可愛いものだ。



    理由その4! ジャーヴィス・ペンデルトンに会いたくないから!



    『私はあの方に私を指図どおりに動かすわけにはいかないことをぜひとも思い知らせてあげたいのです』ときた。

    一体なにがそれほど気に入らなかったというのだ?

    私はいつだって彼女のためを思ってやってきたというのに、どうして贈り物や旅行の誘いが、奨学金だの家庭

   教師のアルバイトだのに負けるのだろう。彼女の経済観念がすこぶる発達しているのはよくわかった。しかし、

   だからといって、こうまで拒絶されなければならない理由がわからない。

    

    それでも彼女に会いたいと思う気持ちが変わらないというのも、困ったものだ。どうせなら「もう知るか!」と手紙

   を叩きつけたっていいはずなのに。そうして今までどおりの、後見人と被後見人に戻れば、この馬鹿げた茶番劇の

   裏側で何が起きていたかなんて、ジュディは一生知ることもないだろう…。

    

    しかし、こんな風にあれこれ文句を言ったって、やることはいつもと同じなのだ。

    ペンデルトンの言うことは聞きたくないのならば、スミス氏に登場してもらうだけだ。

    問題は、電信を打ったとしても、ジュディが移動を始める前に間に合うかということなのだが…。












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