1912年10月5日(土)
     新学期が始まり、ジュディは大学へ戻った。

     スミス氏と彼女の仲は元通りになったようだ。とはいえ、それは彼女がスミス氏の命令を聞かなかったことを

    悔やみ、涙を流して詫びたというわけではない。

     例によって例の如く、老人の不寛恕に対してちょっと顔をしかめて見せて、それでもあなたが好きだから許す

    わと、そこで話を打ち切っている感じだ。もちろんこれは手紙の文面から感じるイメージであって、実際に彼女

    が顔をしかめたりしているわけではない。

     一方、私ことジャーヴィスと彼女の仲は微妙なところだ。それというのも、腹立ち紛れもあったのだが、私も

    ロック・ウィローに行くのをやめたからだ。その代わり以前からヨットに招待されていたのでそれに応じることに

    し、そのことを手紙に書いてロック・ウィローへ送りつけた。彼女がいないのは百も承知である。
     それでもそんなことをしたのは、スミス氏の、引いては私の招待を受けてさえいれば、カヌーなどのようなちっぽ

    けな船ではなく、豪勢な船で楽しい思いをできたのだと思い知らせてやりたかったからだ。

     彼女は身の丈というものを第一にし、分不相応だと感じる贅沢は敬遠するきらいがあるが、それでもその贅沢

    さに対して惑わされないというわけではない。

     だから、ちょっと悔しがらせてやろうと思っただけなのだったが…。

     まあ、なんというか、とっくにバレていたというわけだ。

     ジュリア経由ですっかり情報が届いていたらしい。顔から火が出るとはこのことだ。

     惑わせようとしている私自信が、すっかり彼女に目がくらみ、青臭い小僧のような手管を使っている。

     重症だ。すっかり私は恋に溺れてしまっているらしい。

     



















  
























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