「女性だって?」

    あまりに驚いてしまったので、私は思わず聞き返してしまった。すると彼女は少しもおかしくないというような

   感じで粗筋を教えてくれた。

    時代は海賊が大勢いた十七世紀。話は、ここジャマイカの当時の首都ポート・ロイヤルから始まる。

    主人公はそこの総督の令嬢で、ある時彼女は港を襲ってきた海賊に捉えられてしまう。海賊の目的は身代金

   を得ることだと思わせていた。それに対して令嬢は毅然として海賊に立ち向かおうとする…。

    そこへ、令嬢に思いを寄せる青年(鍛冶屋だが、実は父親は海賊だった。本人はそのことを知らなかった)や、

   令嬢を浚った海賊船レッド・コーラル号の本来の持ち主である男(船長だったが、一等航海士に裏切られて無人

   島に置き去りにされたのを恨んでいる)が絡んでくる。令嬢の味方、あるいは海賊たちの敵が必要だという配慮 
   らしい。

    それから、令嬢が誘拐されたのは身代金目的らしい、と書いたが、海賊たちも本当の目的は、伝説の国エル・

   ドラードへと導く魔法のコンパスを奪うためだったのだ。というわけで、最終的な狙いは、エル・ドラードに眠る
   莫大な宝を得るというもので、最初は巻き込まれただけだったけれどそのうち強く興味を持ち始めた令嬢と、彼女

   をとにかく守るのだと決意を秘めた青年と、昔日の恨みのある現・元船長同士の激しい争いが絡むなかなか壮大

   なストーリー展開なのだが…正直な話、一体誰がこのような話を読むのだろうかと首を傾げざるを得ない。

    海賊が出てくるだけならば、堅い話にも柔らかい話にもなろう。要は題材が何かということよりも、どのように調

   理するのか、ということなのだから。

    しかし、魔法のコンパスが出てくる以上、子供向けにならざるを得ず、しかし元少年だった私から言わせてもらえ

   ば、このような話を喜んで読む少年はいないだろう。

    かと言って女の子が、海賊に混じって暴れる令嬢の話を好むとも思えない。

    しかしジュディは、それは男の人の思い込みで、冒険をしたい女の子だって多いはず。ただ、女の子は冒険をす

   るものではないと親や世間から言われるので、冒険をしてはいけないと思い込んでいるだけだ、と。

    だからこれは女の子向けの冒険ものとして書き上げるつもりだ、と。そしてもしできることならば、大きくなって

   自分で好きな本を選べるようになった小さなジュディがこれを面白いと思ってくれると嬉しい、と。

    とても困った。非常に困った。

    まだ書き始めたばかりなので、上手いとも下手ともいえないし、女の子向けの本の評価を大人の男である私

   にちゃんとできるものでもないだろう。私はそれなりに本を読んではいるが、趣味の範囲内だし、書評家でも出版

   社の児童文学部門の人間でもないのだ。

    だから、出来はともかく(としか言いようがない)、この作品に着手することで何が不満かというと、ジュディが私

   と共に過ごす時間が減るという一点に尽きる、はずだ。

    だが、私といる時でもジュディはスワローという男のことをしょっちゅう口にするので、より不満が高まってきて

  いる。

    …スワローとは、元レッド・コーラル号の船長だ。そいつのことが気に入ったらしく、どうにかして出番を増やし

   たいのだが、そうするとタイラー(令嬢に思いを寄せる、海賊の血を引く青年だ)の出番が減るのでどうしよう

   かというようなことを際限なくしゃべるのだ。

    正直に書こう。スワローもタイラーもどうでも良い。いくら作家が居住を限定されない職業だからと言って、家人

   をないがしろにして良いという理由にはなるまい。

    私たちはもう一週間近く、一緒に散歩をしていない。

    会話の時間は半減し、その貴重な時間をスワローとタイラーとヴィクトリア嬢(ヒロインの名前だ)に費やされて




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小さなジュディ:ジャーヴィスとジュディの娘。ジュディ2世のこと。


ジュディの書いている作品のモデルは(言わなくてもわかる人の方が多いでしょうが)
ネズミー製作の海賊映画…。

それぞれの名前は…
レッド・コーラル(赤珊瑚)号 :色+海でとれる宝石名つながり。
スワロー元船長 :オリジナルは鳥由来姓なのでこっちも鳥に。
タイラー青年 :Tylerは「タイル屋」「タイル職人」という意味。オリジナルと同じく職業由来姓にしてみた。
ヴィクトリア嬢 :英国女王名つながり。ジャマイカは当時英国領だということで(笑)

と、ちゃんと(?)オリジナルをもじってみました(爆)