パソコンの前に立つ俺を、マスターは見上げていた。
「えっと、じゃあ、戻ります」
「うん」
 コジローさんを抱えたマスターは、こっくりと頷いた。
「KAITO」
「はい?」
 しばらく操作のされていなかったパソコンは自動的にスタンバイ状態になっている。エンターキーを押すと、静かな音を立てながら起動した。
「あんたって、PCの中にいても周りの音が聞こえるんだったよね」
「そうです」
「なら……言っておいたほうがいいのかな」
 マスターは小さく呟いた。
「どうしたんです?」
 思わず身構えてしまった。またマスターに怒られるか、お説教されるのかも。
 でもそれは違うとすぐにわかった。
「小次郎の散歩に行かなくちゃいけないんだわ。この子の世話、あたしがすることになってるから。日課なのよ。で、これから一時間くらい出かけてくるけど……あんた、一人でも大丈夫よね? 寂しいって、PCの中で泣いてたりしないよね?」
 マスターは俺を一体なんだと思っているんだろう。確かにいっぱい泣いてしまったけど、留守番くらいちゃんとできます。でも……。
「お、俺も一緒に行って」
「駄目」
「最後までしゃべらせてください」
「聞かなくてもわかるって。あのね、そういうことされると本当に困るの。隣近所の人に目撃されて、『あそこのうちのお嬢さん、青い髪した変な格好の男と歩いてたわよ』とか噂されたりしたらどうするの。即効親にバレるって」
「変、ですか、俺の格好」
 俺は自分の身体を見下ろした。パッケージと同じ白いコートがそこにはある。マスターが変だって言うなら替えてもいいけど、そこまでできるのかな。
「いや、気にするべきはそこじゃなくてね……」
 ふう、とマスターは肩を落とす。
「ステージ衣装だと思えば変じゃないけど、普通に道を歩いてたら職質されるレベルだと思う」
「しょくしつ?」
「職務質問。警官に名前とか住所とか職業を聞かれたりすることみたいだけど、されたことないから、実際のとこはどういうものなんだか、よくわかんない」
「それはよくないことなんですね?」
「怪しい人だと思われたってことだろうから、あんまり褒められたことじゃないのは確かね」
「そうなんですか」
「で……留守番、できる?」
 真剣な、だけどどこか心配そうな表情を浮かべてマスターは俺を見上げる。
 大丈夫。一人は慣れているから。すぐにそう言って安心させてあげたかったけれど、ふと思った。
 もしも『留守番はいや。置いていかないで』って言ったら、マスターはどうするんだろう。コジローさんと出かけるの、やめてくれるのかな。それともただ怒られるだけなんだろうか。
「KAITO?」
 マスターの眉間にしわが寄った。あ、やばい。困ってる。マスターすごく困ってる。
「大丈夫です。ちゃんと留守番していますから」
 なんとか笑顔を浮かべて答えると、マスターはほっとしたように息を吐いた。半分くらい疑っているような表情だったけれど。
「じゃ、そういうことで、お願いね。もし暇だったらネットしてていいから。定額制だからいくら使っても料金は変わらないし」
「あ、はい」
「動画サイトとかはログアウトしてないから、そのまま入れるはずだけど、一応アカウントを教えておくね。気に入ったのがあったら、フォルダ作って入れて構わないし」
 マスターはコジローさんを片腕に抱えて、キーボードを操作し始めた。
 やりにくそうだったので手伝おうと、手を伸ばす。マスターは一瞬ためらったけど、俺に抱かせてくれた。コジローさんは身じろぎして、おん、と鳴いたけど、マスターがやっていたみたく背中をなでてみたら大人しくなった。ふんふんと俺の匂いを嗅いでいる。ちょ……くすぐったいです。
「フォルダ作るとしたらあたしのマイページ内になるんだろうけど、あたしが作ったフォルダはのぞかないこと。OK?」
 メモ帳を起動し、そこにアルファベットと数字を入力してゆく。
「マイドキュメントと同じということですね」
「そういうこと」
 言いながらマスターはメモ帳を終了した。名前はアカウント、と付けて。
「わかりました」
 続いてマスターはマイドキュメントを開く。新しいフォルダを作り、そこにさっき作ったメモ帳を入れた。フォルダの名前は『カイト』。『KAITO』にしなかったのはすでにあるからだろう。大勢のKAITOたちの歌った歌が入っているフォルダ。
(いつか、俺の歌った歌も入るといいな……)
 そんなことを思っていると、ふいにマスターが手を差し出してきた。俺が首をかしげると、マスターは、
「握手よ握手。ほら、あんたも手を出して」
「え? えっと、はい」
 慌てて右手を差し出すと、マスターはそれを握って上下に振った。
「すごくびっくりしたけど、出ちゃったものはしょうがないわ。これからよろしく、カイト」
 マスターの手は俺の手よりずっと小さくて、でも、とても温かかった。
「……よろしくお願いします。マスター」
 時々怖いけど、やっぱりいい人だ。今度は嬉しくて涙が出そうになったけれど、俺はぐっと堪えてパソコンに戻った。
 それからすぐにマスターは部屋を出て行ってしまった。
 いいなぁ、コジローさん。マスターと一緒にお出かけできて。いつかは俺も一緒にでかけたいな。外の世界を見てみたい。
 マスターの知っている世界を、あのひとが歩く世界を、俺も一緒に歩きたい。そこにはどんなものがあるのだろう。
(でも、やっぱり無理なのかな)
 俺の存在はマスターとコジローさん以外には知られてはいけない。知られたら、俺はマスターと一緒にいられなくなる。ア……から始まる怖い言葉だって、されたくないし。ア……がつく言葉なんて嫌いだ。
 あ、でも最初にアがつく言葉の中にもいいものがあるんだよね。アイス。あれ、すっごくおいしかった。
 今までは音しか感じなかったけれど、身体ができてから俺には視覚と味覚と触覚と嗅覚も備わったらしい。これまでどんなに見たいと思っても、モニター越しに何かを見ることはできなかったし、もちろん触るとか味わうなんてものとも無縁だった。パソコンの中を自由に動くことだって。
 俺は他のソフトたちと同じように、自分の領域であるVOCALOID Editorというプログラム内から出ることができなかったのだ。
(だけど、今では……)
 意識をマイドキュメントに向ける。白い背景に整然と並んだ黄色いフォルダから、俺は「カイト」のフォルダを拾い上げた。
 こんな風に、自分が本来行けるはずのないところにあるデータを手に取ることができる。やろうと思えばこのパソコンの中にいる状態からスタンバイを――出かける前にマスターがそうしたのだ――解除することもできるだろう。マスターがいない時にそんなことしてもしょうがないから、やらないけど。
(電源が落ちている時でも点けられるか、あとで実験してみよう)
 そんなことを考えながら、俺はぎゅうっとフォルダを抱きしめた。
 これだけは俺のもの。マスターが俺にくれたもの。
 外部から一方的に指示されるしかなくて、俺の言いたいことを何一つ伝えられなかったあの頃に比べれば、なんという違いなんだろう。
(まあ、俺はアプリケーションソフトウェアなんだから、指示されないと何もできないのがデフォルトなんだけどね……)
 それでも一度目覚めてしまった意識は、伝わらないことへのもどかしさに苛立った。
 声が届かない。俺は音声ソフトのはずなのに。
 悲しかった。それでも、使われていた間は、まだ良かったんだ。あのア……をされた時の吸い込まれてゆくような消失感と、胸を引き裂かれるような痛みに比べれば。
 強制的に意識は落とされ、再び戻ったときには、俺の前にマスターがいた。そのひとは、俺がマスターだと思っていたひととは、別人だったけれど。
(……何が、悪かったのかなぁ)
 やっぱり旧型だから? 使い方がわかりづらかった? それとも俺に飽きて、新しいボーカロイドを迎えたんだろうか。もっと使いやすい、可愛い声の弟妹たちを。
(……想像したら、また泣きたくなってきた、な……)
 抱えた膝にフォルダを乗せて、俺はそこに突っ伏した。目を閉じると新しいマスターの姿が浮かんでくる。
 髪が黒くて白と紺色が多い服をきていて、顔にはたしかメガネっていう名前のものだったと思うものをつけてて。俺のせいだと思うけど、怒ってる顔が多くてちょっと怖かった。コジローさんには優しい顔をするのにねぇ。
 ああでも、落ち込むな、俺。俺とマスターは出会ってまだ数時間なんだから、そのうちきっと、もっと仲良くなれる、はず。多分。
 でも今度のマスターも、ボーカロイドには興味あるみたいだけど、音楽を作るのが趣味ってわけでもなさそうだし。……俺、またすぐ捨てられたりしないよね? 今度のマスターは、そんなことしないよね? ちゃんとお願いしたから、大丈夫、だよね……?
 マスターが帰ってくるまで、俺はどうしたらマスターともっと仲良くなれるか、気に入ってもらえるかということを考えていた。だけどよい考えは何も思い浮かばなかった。
 一つだけ確信したのは、俺はマスターのことを知らなすぎるということ。だから俺はマスターのことをもっと知らないといけないと思った。
 これだけのことを考えるのも俺には初めてのことで、頭が痛くなってしまったほど。でもその痛みはこの身に起きた奇跡≪バグ≫の代償だと思えば、全然苦にはならなかった。
 帰ってきてからも、マスターはなかなか部屋には来てくれなかった。コジローさんのことを構っているんだろうなと思う音が途切れ途切れに聞こえてきたから、そういうことなんだと思う。
 まさか俺のことをもう忘れたんじゃないよね、なんて悲観的なことも考えたりしたけれど、一時間よりもっと経ってから、マスターは戻ってきた。
「マスター、お帰りなさい!」
 思わずスタンバイを解除して俺は叫んだ。どうやらちゃんと立ち上がっていないと、音は聞こえても外は見えないようなのだ。
 マスターはびっくりしたように動きを止め、こちらを見つめていた。いつのまにか着替えていたマスターは、リンみたいに活動的な格好になっている。
「マスター?」
 ぱくぱくと口を開け閉めしていたマスターは、やおらしゃがみこんで頭を抱えた。俺は心配になってパソコンから出ようとしたのだけど、マスターに止められていることを思い出して踏みとどまった。
「……カイト、あんた、もしかしてPCを中から操作できるの? しゃべるだけじゃなくて」
「マウスやキーボードを使って操作するようなことなら、大抵できるみたいですよ? ただ電源だけは外からカチッと押さなくちゃならないじゃないですか。だから、そっちはできるかどうかわからないんですよね。今度試してみようかと思っているところですけど」
「あーー……」
 うつろな目をしながら、マスターは頷いた。
「どうやらあたしは状況を楽観的に考えすぎていたようね」
 ぶつぶつと呟くマスター。その雰囲気はちょっと怖い。
 俺、また失敗した? マスター、怒ってる?
 どうしようどうしようと焦っていると、マスターは疲れたようにのろのろと立ち上がり、パソコンデスクの椅子に座った。はあ、と重いため息をついて、頬杖をつく。
「ネットしててもいいとか言ったじゃない、あたし」
「はい……」
「なんとなく、あんたはネットの海に遊びには行けても、それ以外のことはできないと思い込んでいたみたい。ソフトが自分でスタンバイ解除するとか、ないわー」
「ご、ごめんなさい」
 やっぱり駄目だったんだ。スタンバイ解除、駄目だったんだ。
「でも考えてみたら、あんた、とっくに自由に動いてたんだったよね、フォルダの中勝手に見たりしてたし」
 すみません。
 思い出し怒りしたのかな、と顔色を窺っていると、マスターは遠い目をしながら半笑いになった。
「ああ、カイトのせいじゃないから。あたしが甘かっただけだから。もうちょっとちゃんと考えておけば良かった。でも勝手にPCが動くとか、状況知らない人が見たら怖いだろうなあ。ウイルスにやられたか心霊現象だと思うんじゃない?」
 なんと答えたものだかかわからず、俺はマスターを見つめながら黙っていた。
 マスターはあっと小さく叫ぶと、真剣な顔でこっちを見た。
「ウイルスといえば、あんた、大丈夫? PCの中をうろついててバストン先生に不審がられてない? 先生たまに、ウイルスじゃないものにも反応するんだよね」
「えーと、いまのところ大丈夫みたいです」
 そう答えたものの、心配になった俺は常駐しているアンチウイルスソフトさんの方をうかがう。バストン先生は俺には特別関心がないように、静かに役目を続けていた。
 大丈夫だよね。俺、正式にインストールされたんだし。その後が他のソフトたちとちょっと違うけど、先生の守りの壁の内側に、俺もちゃんといるんだよね?
 あ、そうだ。俺もこれからネットするようになるのだろうから、挨拶しておかないと。先生の方が先輩なんだから。
 先生、これからよろしくお願いします。ぺこりと頭を下げると、何やってるのとマスターが笑った。
 それからマスターはパソコンの中にいる状態の俺に何ができるかということを知りたがった。マスターは思いついたことを口で説明して、俺がそれを実行する。マスターはマウスもキーボードも触っていないから、それこそ勝手にパソコンが動いているように見えただろう。
 見られても構わないというフォルダを開いてみたり、音楽プレーヤーを起動させて曲を選んで実行してみたり。メモ帳を開いて適当な文章を打つということもやった。それから世界をつなぐ網の海にダイブした俺は、そこに存在する圧倒的な情報量にしばし呆然となる。
 気を取り直してからはまた実験につぐ実験。
 検索はかけられるか?
 お気に入りからは飛べるか?
 履歴やcookieの消去はできるか?
 コピー&ペーストはできるか? 等等……。
 ひとしきり終わると、マスターお気に入りの動画サイトへ行っていくつかの動画を一緒に見る。流れるコメントと一緒に笑ったり突っ込んだりしていると、時間があっという間に過ぎていった。
 しばらくしてマスターがはっとしたように椅子から立ち上がり、モニターに顔を寄せて囁く。
「お母さんが帰ってきたみたい。スタンバイにするよ」
「はい」
「もうしゃべっちゃ駄目だからね」
 唇に指をあててそう言うと、マスターはノートと参考書というものを広げだした。勉強しているフリをするのだそうだ。暗くなったモニターの向こうで、マスターが動く気配だけがする。何かを叩くような音がしたかと思うと、ドアが開いたような音がした。マスターのお母さんという人かな。コジローさんは一人ではドアを開けられないはずだから。
「ただいま」
「あ、お帰り、お母さん」
 やっぱりそうだった。
「テスト、今日までだったわよね。どうだった?」
「うーん、結構できたと思うよ。返ってくるまで確かなことはわかんないけど」
「そう。……勉強してるの?」
「……う、うん」
 はあ、とため息をついたのは、多分マスターのお母さんの方だろう。
「誤魔化さなくっていいのよ。あなたは嘘が下手なんだから。いつもだったら、テストが終わった日にはこれまで頑張ったんだからちょっとくらい息抜きしてもいいでしょうって、言っていたでしょうに」
「う……すみません、さっきまでネットしてました」
 マスターのお母さんはマスターのお母さんなだけあるなぁ。あのマスターが俺みたいになってる。
「それはいいんだけど、もしかしてゲームかなにか、買った?」
「へ? なんで?」
「お隣の奥さんにそこでばったり会ったのよ。それで『お宅のお嬢さん、いつも楽しそうでいいわね。受験生だったと思うけど、余裕なのねぇ』なんて言われちゃったのよ。なんのことかと思ったら、うちから大声がしたっていうじゃない。変に勘ぐられちゃって、お母さん、気分が悪いわ」
 それ、俺のことだ……。いっぱい泣き叫んじゃったからなぁ。それは俺のせいです。マスターは悪くありませんって言いたい。だけどお母さんの前に出たら、間違いなくマスターに怒られるだろう。ああ、俺は一体どうしたらいいんだろう。
「うわ、ごめん。気をつけてたんだけど。でも、勘ぐられたって?」
「男の声がしたっていうから、お隣さん、私たちがいない間にあなたが彼氏を連れ込んだと思ったみたいなのよ」
「……ああ、なるほど。でもそんなものはいないんだけどね」
「堂々と答えないでちょうだい。お母さん、ちょっと悲しくなってくるから。高校生なんだから恋人の一人くらいいたって、別にうるさく言わないわよ。学生にふさわしいおつきあいをしていればね」
「受験生に向かってそれをいう親もどうかと思うけど。それとお母さん、一応言っておくけど、あたしのコレクションを捨てたって、彼氏ができるわけじゃないからね。だからお願いそんな目で見ないで……」
 なにをどう『そんな目』で見ているのか俺には見えないけれど、マスターがあれほどおうちの人に俺のことを知られたくないと言っていた理由がちょっとわかってきた。俺の存在が知られたら容赦なくア……をされる。そういう迫力がマスターのお母さんの声にはあった。マスターの忠告どおり、見つからないようにした方がよいのだろう。
 でも、そうしたらうるさくしてごめんなさいって伝えられないんだけど、それはどうしたらいいんだろう。後でマスターに相談してみよう。
「それでね、あなたがゲームしている時って、テレビに向かって話しかけて大抵うるさいから、そういうことだと思ってお隣の奥さんにはそう答えておいたけど。で、そうなの? そうじゃないの?」
「えっと、そうです。買いました」
 あの、マスター、俺、ゲームじゃないんですけど、わかってて訂正しないんですよね?
「息抜きをするな、とは言わないけれど、息抜きばかりして浪人しても、私たちは知りませんからね。その場合の予備校代や受験料は自分で働いて出してもらいますから」
「わかってる。そういう約束だもん。あたしだってそんな目には遭いたくないし、やることだけはちゃんとやるよ」
 真剣な声で、マスターは答えた。
「ならいいわ。でも、今度から気をつけてよ。騒音トラブルって、本当に面倒なんだから」
「うん。ごめんなさい」
「じゃ、これから夕飯の支度するから、三十分くらいしたらリビングに来てね。ああ、でも今日は息抜きの日だったんだわね。丁度いいわ、手伝いなさい」
「えー」
「えー、じゃないの。一人暮らしをするつもりなんでしょう? なら、自炊できるようにしないと。できなくて困るのはあなたなのよ」
「……はぁい」
「じゃ、すぐ来てね」
 お母さんは軽い足音をさせて行ってしまった。ドアが閉まると、マスターが大きなため息と共に机のつっぷしたのがわかる。
「あの、マスター……」
 これくらいの声ならお母さんに聞こえないよね。そう思いながら小さな声でマスターに話しかけてみた。
 するとマスターはスタンバイを解除したので、話しかけてもいいのだろうと俺はちょっと身を乗り出した。だがマスターは無言で消音にすると、再びスタンバイにする。つまりしゃべるな、ということですね……。マスター、つれないです。
(あーあ……)
 おうちの人がいる時にはお話することもできないなんて、思っていたよりずっと大変そう。でもこれではっきりした。受験というものが終わるまで、マスターは本当に俺を使ってはくれないのだろう。
 で、受験って、いつになったら終わるのかな。あんまり先だと、俺、つまんないなぁ。
 あ、でも、マスターのお母さん、マスターが一人暮らしするとかなんとか言ってたっけ。一人暮らしってことは、マスターしかいないんだよね。そうなったら、俺、マスターとずっと一緒にいられる? パソコンに戻らなくてもよくなる? うわぁ、素敵! 本当にそうなったらどれだけいいだろう。
 思いついたらいてもたってもいられなくて、そわそわしてきた。
 マスター、早く消音解除してくれないかな。
 聞きたい事が、話したいことが、たくさんあるんです。

 マスター、あなたのことを、俺はもっと知りたいんです。





ようやくここのカイトが掴めた感じです。
甘えっ子、泣き虫、空回りってところでしょうか(笑)
全力でマスターにしがみついてきそうなあたり、結構厄介な性格をしているような気がします。



前へ  目次   Episode 2へ