なにか変だ。
 俺は困惑しながら辺りを見渡した。
 いつも小次郎さんの散歩の時に寄る公園。そこの広場に俺は座っていた。地面にではなく、白いテーブルと椅子があって、そこに。
 でもこの公園にはテーブルなんてなかったよね、ベンチならあったけど。それに、と俺はちょっと首を上に向けた。
 それから、いつの間に新しい噴水なんてできたんだろう。あと、なんで誰もいないんだろう。人が少ない時はあるけど、誰もいないなんてこと、今までなかったのに。それに、俺、いつの間にここへ来たんだろうか、覚えていない。
(小次郎さんの散歩……じゃないし、買い物でもないはずだし……)
 よくわからないけれど、特に用事がないなら帰ればいいだけなのに、なんだかここにいないといけない気がしたので、とりあえず俺は初めて見た噴水に近づいてみた。
 だけどこれは実際には噴水とは言えないものだった。なにしろ水が吹き出していないから。
 けれど公園にあるのだから噴水なのだろうと俺は思った。そうでなければ何なのかが本当にわからない。
 目の前にあるのは五段重ねになった水槽みたいなものだ。円筒形っていうんだっけ? 一番上にあるのは掌サイズの小さいもの。それが下になるにつれてどんどん大きくなる。それぞれの水槽の高さも、大きさに合わせているのか、だんだん高くなっていた。重ねて収納できるお鍋みたいな感じで。
 全体の高さは俺の身長と同じくらい。一番上の水槽に水が溜まり、すぐ下の水槽に溢れた水がぽたぽたとこぼれている。噴水のようで噴水ではないこれは、でもやっぱり噴水なのだろう。何かで見た覚えがあるんだけど、噴水って、すでにこの公園にあるような、下からばーっと水が吹き上がるだけじゃなくて、上から流れた水が下の水槽にたまって、それがさらに下に流れて……っていうのもあるんだよね。それに似ているからだ。
 だけど三段目から下の水槽は空っぽだ。けれど水が止まっているのかというとそれも違う。水槽は透明なので横から見えるのだけど、一番上の水槽の底から水が湧き出ているようなのだ。強くも弱くもない、ただ明るいだけの空の下、水が揺らいでいるのがわかった。
 上の水槽からこぼれた水は、二番目の水槽の半分を越すくらいまで溜まっていた。この調子では一番下の水槽がいっぱいになるまでどれだけかかるだろう。
(工事中なのかな?)
 それなら、この状態なのも理解できる。色々と終わっていないこともありそうだし。
 なにしろこの水槽には支えみたいなものがないんだもの。それぞれの水槽が間隔を空けて宙に浮いている状態なのだ。これじゃあなにかの弾みにひっくり返りそう。ニュースとかで、公園の遊具が壊れて子供が怪我をしたとかいうのを聞いたことがある。これは遊び道具じゃないけど、暑い日に公園の池に小さな子供を入れて遊ばせる様子をやっぱりニュースで見たことがあるし。下から二段目の水槽でも小さい子の手に届きそうだから、ひっくり返らないとも限らなくて、だからきっとちゃんと固定するまで水量を少なくしているんだ。
 ……本当にそうかな。それにしても何か変だと思うけど。
 俺は手を伸ばして水槽に触れてみた。
 水槽、と思っていたけれど、それは固くなかった。だからガラスではないのだろう。だって押すとへこむけど、手を離すと元に戻ってしまう。ガラスだったらこんな風にはならないよね。
 触った感じでは固いビニールかなと思う。でもビニールにしては薄い。ビニールなら、ぺらぺらへなへなしているから、こんな風にきれいな形を保っていられるとは思えないし。でも俺の知らないことなんていっぱいあるだろうから、やっぱりビニールなのかもしれない。
 他には特に見るものもないので、俺はテーブルのところへ戻った。あれ、いつの間にか何かある。……って、俺じゃないか!
 テーブルの上にはVOCALOID KAITOの箱があった。手に取るまでもなく、中身は「俺」のディスクだとわかる。うわー、なんでこれが外にあるの!? うっかり誰かが持っていったり壊れたりしたら俺の身が危ない!
 慌てて回収し、ぎゅっと抱きしめる。あたりをきょろきょろ見渡しても、やはり誰もいなかった。じゃあ、これ、誰が持ってきたんだろう。とにかく持って帰らなきゃ。
 帰らなきゃ……。

「……なーさーいー!」
(……ん〜〜)
「カイト、カイト、カイトーー!」
(……かお、いたい?)
「ちょっとー!」
 ゆさゆさと揺さぶられる感覚がする。頭がうまく動かない。……まぶだが重い。マスターの声がする。あ、俺、横になっているな。なら起きなきゃ。でもまぶたが開かない。
「う、ぁー……」
 ぼんやりとした視界の中にマスターの姿があった。
「……ますたー?」
 さっきまでどこにも誰もいなかったけれど、マスターに会えた。誰に出会えるよりも嬉しい。
 不安だった気持ちが薄らいでいった。けれどそれとは別に沸き起こる疑問。
「どこ……いってたんれすか?」
「どこって、おじいちゃんちよ」
 おじいちゃんち? なんだっけ、それ。でもいいや。マスターがいるんだし。でも、
「だれもいなくて、さびしかったですよぅ。ますたー、あんなとこに俺をおかないでください」
「ちょっと、カイト!」
 マスター、マスター、マスター。あんな変な世界、俺はあまり好きじゃないですよ。あんなところに、俺を一人にしないで、マスター……。

 それから少しして、なんだか色々痛かったりしたあと、俺はジョーさんもいることに気がついた。
 マスターがリビングに移動しようと言ったので、俺とジョーさんはのそのそとそちらへ向かう。ジョーさんは俺と並んだときに「心配かけさせやがって」と耳元でぼそっと言った。……心配って?
 聞き返そうとしたけれど、マスターにほい、と保冷剤を投げられたので、落とさないようにキャッチする。それを頬に当てていてと言われたので当てていると、洗面所に行ったマスターがタオルを持って戻ってきた。それを保冷剤に巻いておきなさいと付け加える。顔のひりひりしているところへくっつければいいのだろうと思ってそうしたのだけれど、これだと話がしにくくなりそう。
「あのー、ところで、何かあったんですか?」
「何かって」
 聞くと、それまで普通に見えたマスターの顔が強張る。
「だって、一日早く帰ってくるなんて。マスター、どうして連絡してくれなかったんですか。俺、迎えに行ったのに」
 するとマスターは小さくため息をついた。
「わたしは予定通りに帰ってきたんだけどね。そして新幹線が着いてから二十分は待ったんだけどカイトが来なかったから、また一人で帰ってきたのよ」
「え?」
 今日がすでに明日?
 ジョーさんに目を向けると、彼は無言で頷いた。
「メールチェックしてごらん」
 こころもち唇を尖らせながら、マスターは言う。俺はわけがわからないながらもすぐにパソコンに接続した。
 最新のメールはマスターからで、それはやっぱり俺が今日だと思っている日の一日後の日付になっている。
「何で?」
 首をかしげると、すかさずマスターが突っ込む。
「こっちが聞きたいくらいよ」
 続けて一体何があったか説明しなさいと言われたが、俺にだってよくわからないのだ。マスターの眉毛がつりあがり、口はへの字になったので、俺は助けを求めてジョーさんの方を見る。
 ジョーさんは何かに気づいたように小さく口を開けると、落ち着け、とマスターに一言声をかけてパソコンをいじり始めた。うう、見捨てないでください。
 わけのわからないまま怒っているようなマスターと向き合わなければいけなくて、俺は泣きたい気分になった。マスターは「荷物重かったし」とか「アイス食べに行かれた方がましだった」とかぶつぶつ言っていて、俺はいたたまれなくて仕方がなかったけれど、ふと彼女の目に涙が浮かんでいるのに気づいてどうにかしなければと思った。
「あの、マスター、ごめんなさい」
 他に言えることが思いつかなかったけれど、この場合、何がごめんなさいなんだろう。でもマスターの涙は止めたい。
 するとマスターはくわっと表情を一変させて叫んだ。
「別にあんたのことなんて心配してないわよ!」
 そしてふんっと鼻息も荒く、そっぽを向く。
 ……そうか。マスターは心配してくれていたのか。そうだよね、だって俺にもわけがわからないけれど倒れていたみたいだし。俺だってマスターが倒れていたら、すごくすごく、心配するだろう。おまけに俺が自覚している時間から半日以上経っていたから、マスターはまた待ちぼうけを食らわされてしまった。たくさん荷物を持って帰らなくちゃいけなくて、大変だっただろうなぁ。お盆の時に続いて二度目だよ。今回は自分のミスだと思えないだけに、なんだか悔しい。
 その時「行くぞー」という声がかかった。
 どうしたのかと思う間もなく、俺は歌を求められたことを理解する。マスターのことは気になりつつも、歌えと指示されたら歌わねばならない。指示してきたのはジョーさんだけど。
 喉から身体から、歌声を発散させる。パソコンの外部スピーカーから流れる俺の声とで二重唱になった。
 問題なさそうだなとジョーさんはマスターに話しかけると、マスターはばつが悪そうな顔でそうですね、と答えた。
 アカペラで一曲歌い終わる頃にはぴりぴりしていたマスターの気分も落ち着いたようで、何か聞きたそうに俺を見つめてきた。最後の響きが消えると、マスターは短く息をつく。
「まあ、何事もなかったようで良かったわよ。……なかったよね? ねえ、体調とか今までと何か違うとかある?」
「いえ、特に変わった感じはしませんけど」
 マスターの声から完全に棘が抜けたので安心して俺は答える。うん、俺としては何かがあったという気がしないんだ。少し前まではすごくまぶたや身体が重い感じがしたけれど、もう何ともないし。
 するとマスターは立ち上がり、床に膝をついてソファに頭だけを預ける格好をした。顔を両腕で囲いながらこっちを振り返る。
「帰ってきた時、あんたはベッドにこんな体勢になっていたの。目を閉じていて……。なんでこんな恰好だったの? それも覚えていないの?」
「あー……それは」
 覚えています。というよりも、思い出しました。
 俺が話をするのだと察したマスターはソファから起き上がり、ちゃんと座り直す。ジョーさんもパソコンデスクから離れてあぐらをかいた。俺は頬に当てていた保冷材を一旦外して、正座をする。
「昨日のことですが、アパートに戻った後、荷物を片づけて、さっと掃除して、買い物に行こうかなぁとか考えたんですけど、外がもう真っ暗だったし、明日の、じゃなくて今日の午前中でもいいかと思い直したんです」
 うう、続きは言いたくないな。マスターに怒られるかもしれないから。でもすでに見られているんだから、下手に隠しても無駄だよね。
「何もすることがなくって、俺、退屈だったんです。マスターとも何日も会っていなかったから寂しかったし。それで……俺、早く明日にならないかなぁって思いながら、マスターのベッドに突っ伏したんです。お布団って、マスターの匂いが残ってそうで。マスターが近くにいる感じがちょっとだけするから……」
 マスターの顔がおかしくなった。怒っているようでも呆れているようでもない、初めて見る顔。もちろん喜んでいるわけでもなくて、俺にはマスターが何を思っているのかまったくわからなかった。
「で、でも、中にもぐりこんだりはしてないです。端の方をちょっと借りただけといいますか……」
 すると、ジョーさんは「あちゃー」とかいいながら顔を手で覆う。そうですよね、駄目ですよね。なんで駄目なのかは俺も今は理解しています。お盆の時の俺とは違うんです。だから、知られたくなかったんだ。
 だけど言い訳をさせてもらえるなら、俺とマスターが二人で使うものは特に断ったりしなくてもいいんだけど、マスターしか使わないものは、俺は勝手には触らないようにしていたのだ。マスターとのお約束の延長で、そうした方がいいと考えたのだ。もちろん掛け布団などは日に当てたりするために、マスターが学校に行っている間に俺の判断だけで触ることもあるけど、そういうのは別だ。……でもこんなの、今更説得力がないよね。
 マスターはしどろもどろで説明する俺にやるせなさそうなため息をつくと、いいから先を続けてよと言った。
「えっと、それで、布団に突っ伏してじっとしていたら身体が重くなってきて……。あ、その前からもなんだか身体の色々なところが重く感じて、うまく動けないとは思っていたんです。それがずっと強くなって……」
 うんうん、とマスターは相づちを打つ。ジョーさんもわずかに身体を前のめりにしてじっと聞いていた。
「気がついたらいつも行っている公園にいたんですよ」
 マスターは目をぱちくりとした。
「公園?」
「はい。自分ではそこに行った記憶が全然ないんですけど」
 俺は公園に誰もいなかったことや新しい噴水らしきものが工事中であること、それに「俺」がいつの間にか置いてあったことを話した。
「あ、そういえば、俺は「俺」を抱えていたはずだけど、アパートに戻った記憶も片づけた覚えもないんです。あれ、どうしちゃったんだろう。まだ公園にあるのかも。すぐ取りに行かなくちゃ!」
 焦って立ち上がる俺にジョーさんは、まずは落ち着けと腕をつかんだ。そしてマスターにKAITOの箱はどこだと聞いた。
 どこって公園だろうに、と俺は思ったのだけど、マスターは身軽に立ち上がって、箱を保管しているところからあっさりと「俺」を取り出してきた。……あれ?
「マスター、片づけておいてくれたんですか?」
「いや、そもそも引っ越しの時以降、触ってもいないけど。特に使う機会もないし」
 複雑そうな顔で、マスターは箱を振る。カタカタと中から音がしているので、CDもちゃんと入っているようだ。それから彼女は先輩に向かって、なにやらマスター同士にしかわからないようなアイコンタクトを送った。
「噴水作ってるって……普通、年末年始に公共工事なんて始めないですよね。道路が壊れたとかじゃないんだし」
「あんまり聞かないよな」
 とジョーさん。それから続けて、
「多分っていうよりはほぼ間違いないだろうけど、公園にはお前が見た噴水なんてきっとないぜ」
「え?」
 今度は俺が目をぱちくりとさせる。
「あのな、カイト」
 ぽん、とジョーさんは俺の肩を叩いた。
「お前の経験したことな、人間流に言えば眠り込んで夢を見ていたって言うんだよ」
「え?」
 俺はマスターを見やる。
「そうとしか考えられないよね」
 納得がいかないという顔ではあるものの、マスターも同意した。
「え、でも、寝ていたって……」
 だって俺、睡眠って必要ないんじゃなかったの?
 答えを求めてジョーさんとマスターを交互に見やる。しかし二人とも困惑したように俺を見返すだけだった。
 居心地の悪い沈黙が部屋を支配する。
「カイトはジョーさんのところで、夜の間はどうしてたの?」
 しばらく黙ったままだったマスターは俺たちにたずねる。先に答えたのはジョーさんだった。
「俺の母親が客用布団を用意していたから、横になりたかったら使え、とは言ったけど実際に寝たことはなかったよな」
「はい。さすがに夜中によそのおうちでうろうろするわけにもいかないので、ジョーさんの部屋でジョーさんが持っていた音楽の本とかを読んでいました」
 布団はジョーさんの部屋に用意されていたので、ずっと同じ体勢でいるのに飽きたら寝転がりながら読んだりもしたけど、意識が途切れたことはないはずだ。
「でも、身体が重いと感じたのよね。それは帰ってきてからなの?」
「えーと……」
 なんだか色々な記憶がごちゃまぜになっているのですぐには思い出せなかったけれど、確か……。
「いつからかというのははっきりわからないですけど、ジョーさんの家にいたときからです。最後の二日くらいにはちょっといつもと違うなって感じていました。でも……」
「でも?」
「マスターと会えなくて寂しくて調子がおかしくなったんだと思ったので。あと、色々考えることがありましたし」
「考えること?」
 なあに、という感じでマスターがかすかに首をかしげたので俺は先を続けようとしてしまった。けれど。
「あのー……」
 恐る恐る、ジョーさんの方を見る。ジョーさんはちょっと遠くを見る目になり、あーと呻いた。
「その話は後回しということで」
 ジョーさんは片手をあげてこの話はここまで、という身振りをした。マスターは俺たちの反応で何かに気づいた様子で、
「ああ、うんわかった。後でね」
 とこくこくと頷いた。
「……で、今回の現象はカイトが寝ていただけってことでいいの?」
 どことなくよそよそしい雰囲気で、でも至って真面目な様子でマスターは聞いた。ジョーさんも、どうなんだ、と目で問うてくる。四つの目でじいっと見つめられて、俺は落ち着かなかった。
「あの……わからないです」
 答えた途端、二つの口からため息がもれた。
「ま、睡眠ってのを経験したことがないなら、眠いって感覚もわかんないものかもな」
 どうにかして納得しようとしている様子でジョーさんはぼやく。俺のさっきまでのあれが寝ていたということならそうかもしれないけど、でも本当にそうなのかどうかわからなくて、俺は相づちも打てないでいた。
 マスターは疲れたのか、正座していた足をくずして体育座りになる。
「じゃああの行動不能状態が寝ていただけだというのを確認するには、しばらくPCに戻らないでずっと外に出ているようにすればいいのかな。また動けなくなったら、やっぱり寝ていたってことで」
「また夢でもみればさらに寝ていた疑惑は確証に近づくな。俺たちは実体化ボーカロイドじゃないから、その可能性が大きいってこと以上のことは言えないが。あ、そうだ」
 ぽん、とジョーさんは膝を打つ。
「カイト、お前、寝る前と今とでは感覚は違うか? つまり、重かった身体が軽くなったとか」
「あ、はい。今は何ともないんです」
 俺は元気いっぱいであることを示すために、腕をぐるぐる回してみせた。
「んーじゃあ……」
 ジョーさんは目を閉じる。沈黙して考えごとをしているのを俺はどきどきしながら見守った。一体、何を言われるのだろう。
「このまましばらくパソコンから出とけ、と言いたいところだけど、やっぱり何かのエラーだったらヤバいから一度リセットしよう」
「リセット?」
 マスターがジョーさんに視線を向ける。
「パソコンに一度戻ってから、しばらく夜になってもパソコンに戻らない生活をしてみろよ。そうだな、とりあえず十日か」
「ああ、同じ条件で再現できないかってことですね。ということは食事は普通に取るわけだ。電気エネルギーが必要かどうかってことを見るんですね」
 納得したのか、マスターは何度も小さく頷く。
「まあな。でもまるきり同じってわけでもないのが面倒なところだよな」
「何か違います?」
 同じ、なはずだけど、と俺は疑問に思った。
 ジョーさんは当たり前のことのように答える。
「お前、マスターがいなくて寂しくて不調になったかもって言ったじゃないか。なら、ここで再現実験をしても特に何も起こらない可能性もあるんだよな。ま、それならそれで一定期間以上、マスターと離れた状態では実体化エネルギーが保てなくなるってことになるわけで、それがわかればそれはそれでひとつの成果だけどな」
「ジョーさんは色々考えるんですねぇ」
 感心していると、ジョーさんはあのなぁと呆れたような口調になる。
「お前ももう少し頭を働かせろよ、自分のことだろ」
 まったくもって、その通りですね。
 俺はごめんなさいと頭を下げると、その上に寸止めの拳が降ってきたのだった。






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